ランニングによって筋肉が落ちるというのは、「Yes?」or「No?」

近年、健康志向の高まりからランニング人口が増加傾向にある。特に、20~30代の若い世代のランニング実施率は、過去20年でかなり増加している。ランニングブームと言われる現在、ランニングをすると筋肉が落ちると耳にすることがある。それは本当だろうか。答えは、「Yes!」でも「No!」でもある。正確にはランニングによって筋肉には、落ちる筋線維と鍛えられる筋線維がある。今回は、ランニングをすることにより筋肉にどのような変化が起こるのかを説明していく。ランニングによって筋肉が落ちるとも落ちないとも言える理由が理解できる。


ランニングとは、どのような運動か

ランニングには、何km/hで走るなどといった定義はない。ジョギングは、誰かと話をしながら走れる程度の速さだとすると、ランニングはそれより速く走ることである。心拍数が上がり、息切れもする程度の強度である。ジョギングの延長線上にあるのがランニングと言える。ランニングは、ごく一般的な有酸素運動の一つである。有酸素運動とは、ウォーキングやジョギング、ランニング、水泳など長時間にわたり持続的に行う運動のこと。主に脂質を酸素によって燃焼させ、エネルギーを作り出すことから、有酸素運動と呼ばれている。有酸素運動の目的は、体脂肪の燃焼や呼吸循環器系の機能向上である。ランニングは、筋肉を向上させるために行う運動ではないということが言える。

運動の種類によって鍛えられる筋線維が異なる

ランニングは、筋肉を向上させるための運動ではない。しかし、運動であることから筋肉に反応が起こるのは当然である。では、どのような反応が起こるのだろうか。運動には大きく分けて、2つの運動があり、その運動によって筋肉に起こる反応は異なる。筋肉には、特徴ごとに3つの筋線維があるが、ここでは大きく2つに分けて説明をしていく。

速筋線維

筋肉の中にある線維の一つで、筋線維が白く見えることから白筋とも呼ばれる。力を発揮する時間が短いもので、収縮と弛緩する速度が速く、大きな力を瞬間的に発揮できるのが特徴である。しかし、疲労しやすい弱点がある。主に、ウエイトトレーニングやダッシュなどで鍛えることができる。

遅筋線維

筋肉の中にある線維の一つで、筋線維が赤く見えることから赤筋とも呼ばれる。力を発揮する時間が長く、収縮と弛緩する速度がゆっくりである。速筋線維のような瞬間的に大きな力は発揮できない。しかし、疲労にくく持久力に優れた特徴がある。主にウエイトトレーニングや有酸素運動など、様々な運動で鍛えることが可能である。

無酸素運動による筋線維の反応

有酸素運動による筋線維の反応

無酸素運動とは、ウエイトトレーニングやダッシュなど短時間に瞬発的な力を発揮する運動のことである。短時間に大きな力を発揮するためには、筋肉の中に貯蔵されているATP(アデノシン三リン酸)がエネルギー源となる。ATPを生成するためには糖質が必要になる。呼吸をほとんど止めた状態で激しく運動をすることを特徴としており、酸素を必要としないことから、無酸素運動と呼ばれる。無酸素運動では、速筋・遅筋線維ともに運動に動員されるため、全ての線維が増強することが認められている。
有酸素運動は、長時間にわたり持続的に行う運動のことである。そのため、力を発揮する時間が長く、疲労しにくい遅筋線維が中心となって運動に動員される。しかし、速筋線維はほとんど動員されない。その結果、遅筋線維は増強するが、速筋線維は低下することが認められている。

筋肉が落ちることが考えられる要因

有酸素運動だけに偏っている

行う運動が有酸素運動に偏ってしまえば、当然、筋肉が落ちる可能性はある。しかし、落ちるのは速筋線維のみであり、遅筋線維については増強する。筋肉が落ちるということを、どういった定義でみるのかによって、判断が異なるのではないだろうか。例えば、マラソンの一流選手は、日に日に筋肉が落ちているのかというと、そんなことはない。筋肉は細くなっていっているかもしれないが、遅筋線維が選択的に肥大した状態になっているはずである。日常生活を送る上では、速筋線維、遅筋線維に偏って強化させるのではなく、バランスの良い状態を作ることが重要である。そのためには、有酸素運動に偏らず、ウエイトトレーニングやダッシュなどの無酸素運動とをバランス良く実施することにより、理想的な身体を手に入れることができる。また、その2つの運動効果をより引き出すためには、ウエイトトレーニングなどの無酸素運動をした後に有酸素運動を行うとよい。無酸素運動の主なエネルギー源は糖質であるため、はじめに行うほうが効果的なのである。その後にランニングなどの有酸素運動を行えば、無酸素運動によって糖質を多く消費した状態となるため、脂肪の燃焼効率が高まり、ダイエットをする上でも効果的である。

エネルギー不足

運動を行う場合、当然、エネルギー源が必要となる。そのエネルギー源となるのは、主に糖質と脂質である。血液中の糖質と筋肉中にあるグリコーゲン、体脂肪として身体にたくわえられている中性脂肪が走る時の主なエネルギー源となる。走り始めたときのエネルギー源は、即効性の高い糖質が主に使われる。その後、長時間のランニングになると、脂肪を酸素によって燃焼させてエネルギー源を生み出すことになる。一般的には、20分以上運動を継続すると脂肪の燃焼が始まると言われる。ランニングがさらに長時間となると、血液中の糖質や筋肉中にあるグリコーゲンが枯渇してエネルギー不足の状態におちいってしまう。そうすると、筋肉の中にあるたんぱく質が血液中にアミノ酸として放出されてしまう。その結果が筋力低下に結びつくわけである。

ダイエットを行っている

ランニングをしている方には、ダイエットを目的としている場合が多くある。ダイエットを行っていると、運動だけでなく食事にも気を使うことがほとんどだろう。最近では、炭水化物抜きダイエット、糖質制限ダイエットなど一般的に知られるようになっている。炭水化物、糖質を制限してしまうと、知らず知らずのうちに運動を行うためのエネルギー不足を生みやすくなる。極端な炭水化物、糖質の制限を行うことが筋肉を落とすことにつながる危険性もあるため、注意が必要である。運動前や運動中にエネルギー補給をすることも考慮する。最近では、コンビニなどでエネルギー補給のためのゼリーや食べ物を簡単に購入することができるため、それを利用することも一つの方法である。

オーバートレーニング

オーバートレーニングとは、過度のトレーニング頻度、量、強度のものと定義される。オーバートレーニングは、運動のレベルに関わらず、運動パフォーマンスの急激な低下を引き起こす恐れがある。筋肉が落ちることも十分に考えられる。オーバートレーニング自体は、身体を極限まで追い込む刺激であるが、それが許容範囲を超えてしまうと単なる刺激ではすまなくなってしまう。燃え尽き症候群(バーンアウト)などの言葉を耳にすることがあるかもしれないが、無気力となったり運動発揮が十分にできなくなったりするオーバートレーニング症候群とならないように注意が必要である。オーバートレーニングとなるか否かについては、体力など個人差がある。ダイエットを行っていれば、エネルギー不足の状態で運動することが多くなることが考えられ、それがオーバートレーニングに結びつくこともある。そのため、運動を長期的に継続する場合は、自身の目的や疲労状態などにしっかりと注意して計画を立てていくことが必要である。また、身体的な疲労だけでなく、精神的な疲労についても十分に考慮する。

まとめ

ランニングによって筋肉が落ちると耳にすることがあるが、これは正しくもあり間違いでもある。ランニングによって、遅筋線維が選択的に強化されることにつながるため、遅筋線維の筋力は増強する。しかし、無酸素運動のように全ての筋線維を運動に動員させるわけではないため、速筋線維は低下してしまう恐れがある。明らかな筋力低下が起きている場合は、ランニングに運動が偏っていたり、エネルギー不足を招いていたり、ダイエット中であったり、オーバートレーニングとなっていたり、いくつかの原因が考えられる。ランニングが直接的に筋肉を落としているとは考えにくい。日常生活を豊かにするためには、バランスの良い筋肉を維持、増強することが重要である。そのためには、ランニングなどの有酸素運動に偏るのではなく、ウエイトトレーニングなどの無酸素運動も取り入れながら、バランスの良い運動を行うことが必要である。
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